(Photo from Rate Your Music)
フィッシュマンズの評価が、ここ1~2年で海外で急上昇中しています。中でも音楽・映画のデータベースサイト『RYM(RATE YOUR MUSIC)』では、ライブアルバム『’98.12.28男達の別れ』が全世界の350万枚以上のタイトルを含むチャートで、なんと80位(2019年5月時点)*1*2この事はアメリカでインディ・レーベルを運営しているBen君(@cudighirecords)から教えてもらいました。
- RYM(RATE YOUR MUSIC)とは
- ランキングについて
- チャートの信憑性について
- 『’98.12.28 男達の別れ』は具体的にどんな評価なのか
- レビューには何が書かれているのか
- 他作品の評価について
- おわりに
- 2021年7月追記
RYM(RATE YOUR MUSIC)とは
『 RYM』は、アメリカの音楽と映画のコミュニティ兼データベースサイト。アーティスト、レーベル、ジャンル別などににクロスリファレンスされた音楽と映画を調査でき、アカウントを作成すれば、音楽や映画を評価、レビュー、カタログ化、タグ付けできるようになります。
また、自身を紹介するプロフィールや友人リストの作成に加え、プライベートメッセージの送信などといったSNS的な要素もあります。
ランキングについて
2019年5月25日時点の全体ランキングのトップ10は以下のとおりでした。*3 *4
Top Albums of All-time #1 - #10
- 1.Radiohead - OK Computer (1997)
- 2.Pink Floyd - The Dark Side of the Moon (1973)
- 3.Radiohead - Kid A (2000)
- 4.The Velvet Underground & Nico - The Velvet Underground & Nico (1967)
- 5.Pink Floyd-Wish You Were Here (1975)
- 6.King Crimson-In the Court of the Crimson King (1969)
- 7.My Bloody Valentine - Loveless (1991)
- 8.The Beach Boys - Pet Sounds (1966)
- 9.Radiohead - In Rainbows (2007)
- 10.The Beatles - Abbey Road (1969)
『RYM』は、同種のデータベースサイト『discogs』と比べると「ロック・オリエンテッドなデータベース」と評されるだけあってロックに類するアルバムのみがチャートインしています。オルタナティブ、プログレ、サイケデリック色が強い印象。
そして『98.12.28 男達の別れ』のチャートとその前後を抜き出したものが以下です。
Top Albums of All-time #76 - #85
- 76.The Velvet Underground - White Light / White Heat (1968)
- 77.Kate Bush - Hounds of Love (1985)
- 78.David Bowie - Station to Station (1976)
- 79.Talk Talk - Spirit of Eden (1988)
- 80.Fishmans- 98.12.28 男達の別れ (1999)
- 81.Bob Dylan - Bringing It All Back Home (1956)
- 82.Pink Floyd - Meddle (1971)
- 83.David Bowie - Hunky Dory (1971)
- 84.Frank Zappa- Hot Rats(1969)
- 85.Radiohead - Amnesiac(2001)
ロック名盤的な錚々たるメンツに挟まれてチャートインしていました。なお、1位~80位のあいだに他の日本のアルバムは存在しません。
チャートの信憑性について
『RYM』のチャートは、以下の数値に基づいて算出されています。
- ユーザーの5点満点評価の値
- 評価数
- レビューの数
これら数値を独自のアルゴリズム(加重平均値+複数の要素を考慮しているとのこと)によってスコアリングしています。
もちろん意図的に特定の作品のスコアを組織票で上げたりするなどの操作が出来ないようになっており、アルゴリズムの詳細も非公開。チャートは2週間ごとに更新されています。
RYMのサイト情報について
2018年7月時点での『RYM』の各種数値は以下のとおり。
RYM アカウント数:579,966
登録アーティスト数:1,228,075
登録タイトル数:3,707,597
評価数:56,356,263
レビュー数:2,211,072
Statistics 2018 in the official "Statistics of RYM" thread
チャートを構成する要素である評価数は5,600万以上。2017年からの1年間で評価数は1,000万増、登録タイトル数は30万増。アカウント数も近年約5万ずつ増加しています。
同種サイト『Discogs』のサイト情報
同業の『Discogs』の各種数値も確認したところ、肝心の評価数やレビュー数はわかりませんでした。アーティスト数とタイトル数は『RYM』よりも多いです。
アカウント数(※):418,140
登録アーティスト数:5,284,282
登録タイトル数:10,000,000
※厳密にはContributors(協力者)という表現です。アカウントとイコールと考えて大丈夫だと思いますが。
10 Million Releases on Discogs!
RYMユーザーの属性について
以下は2017年4月時点のユーザー属性です。アクセスの3割以上をアメリカ、そして18~24歳の若者が占めています。
■国
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アメリカ:35%
イギリス:8.5%
カナダ:5%
オーストラリア:3.5%
ドイツ:3.1%
イタリア:3.1%
ポーランド:3%
スペイン:2.8%
フランス :2.5%
ブラジル :2.5%
■年齢層
----------
18-24歳:34%
25-34歳:29%
35-44歳:15%
45-54歳:11%
55-64歳:8%
65歳以上:3%
Site Demographics?
『’98.12.28 男達の別れ』は具体的にどんな評価なのか
『’98.12.28 男達の別れ』の具体的な評価は以下のとおりです。
評価:4.36 / 5.0*5
評価総数:4,204*6
レビュー数:82*7
ランキング:1999年リリース作品で2位, 全体で80位
ジャンル:Dream Pop,Dub, Neo-Psychedelia, Ambient Pop, Progressive Pop
言語:Japanese, English
98.12.28 男達の別れ (98.12.28 Otokotachi no Wakare)
他と比較すると、評価は高いが評価総数は少ない
全体チャートの上位に掲載されるためには、高い評価とある程度の評価数が必要な印象を受けます。例えば、97位のNirvanaの『MTV Unplugged in New York』は、評価:4.09、評価数:13,476、レビュー数:390。そして99位のElliott Smithの『Either / Or』は、評価:4.07、評価数:13,071、レビュー数:241。
一方『’98.12.28 男達の別れ』は評価数:4,204、レビュー数:82と同位置にいる他の作品よりも桁がひとつ少ないです。それでも80位にいる背景には評価:4.36という値が関係していそうです。
評価の値だけを見ると全体で2位
『’98.12.28 男達の別れ』より評価の値が高いアルバムを調べたところ、1枚しか見当たりませんでした。チャート36位にいるMingusの63年作『The Black Saint and the Sinner Lady』 。評価の値は4.37です。
こちらのカスタムチャートをもとに調査しました。人気度(評価総数)の重み付けを最低にし、評価の値を優先したランキングを作成できます。
よって『’98.12.28 男達の別れ』は評価の値のみでは2位。高評価をしているユーザーがとても多いといえます。評価総数は少ないものの、彼らの評価が結果的に80位まで押し上げているのかもしれません。
1999年リリース作品では2位です。1999年リリース作品のチャートはこちら。ボアダムスもいますね。
Top Albums of 1999 #1 - #10
- 1.Sigur Ros - Agatis byrjun
- 2.Fishmans - 98.12.28 男達の別れ
- 3.The Flaming Lips - The Soft Bulletin
- 4.Opeth - Still Life
- 5.Mos Def -Black on Both Sides
- 6.The Magnetic Fields - 69 Love Songs
- 7.Built to Spill - Keep It Like a Secret
- 8.Mr. Bungle - California
- 9.American Football - American Football
- 10.Boredoms - Vision Creation Newsun
レビューには何が書かれているのか
レビューにはどんなことが書かれているのかを調べるため、ランダムに2つピックアップしてみました。稚拙な和訳ご容赦ください。
『Oh! Slime』のはじまりの瞬間よりも優れたフィーリングや安心感は存在しない!この曲は、イノセント且つ美しいやり方によって、反復的なバンド名とメンバー紹介の反復されるチャント、そして「ARE YOU FEEL GOOD?」といったセリフさえも、ポジティブなオーラに包まれている。
そして、同曲の終盤数分間の制御不能なまでの渦巻きようといったら!バイオリン、キーボード、全メンバーの夢のような声を聴いている間、この音楽にも人生にもネガティブなことは考えられない。
このアルバムの個人的なお気に入りの曲である『ゆらめきIN THE AIR』よりも大きなカタルシスはこの世に存在しない。そして、最後にこの曲が何を表現しているかが分かったとき、とてつもない残酷さを感じるだろう。涙なしには聴けないほどに美しい。
このアルバムは、不満をまったく見つけられない数少ない作品の一つ、つまり文字通り完璧なレコードだ。長い収録時間にもかかわらず、全ての演奏を楽しみ続けられる。そして『ロングシーズン』のパフォーマンスは最高に素晴らしい。シンジと各メンバーの演奏の背後には、とても大きなエモーションが存在する。
このアルバムの感傷的な側面・バックストーリーを掘り下げようとするつもりはないし、他のレビュワーが既に言及していること以上のことは言えないが、自分にとって非常に密度が高く、個人的なものに感じられた。
他のレビュワーが言いたいことを書いてくれてるし、こうまとめさせてもらう - このアルバムは、実際に生きていることを喜ばせてくれる記録(recording)だ。楽観的な気分に浸らせてくれて、未来に直面する決意をもたらしてくれる。可能なら10点満点中11点つけたい。
いつかもっと長いレビューを書くかもしれないけど、今のところ、この作品について自分の気持ちをかなりうまくまとめられた気がする。
Rest in peace 佐藤伸治、HONZI...この名作に感謝します。
・・・といったレビューが約80個ほど載っています。
「感傷的にはなるまい」と音楽的なことを書きつつ、最後にはRIP感に包まれてしまうのも、良くも悪くも日本のレビューやSNSに近いようにも感じました。
NYのファンによって英語版Wikipediaも大幅に加筆
こうした熱狂的なファンの行動は、他のサイトにも影響を与えています。2019年の4月にはニューヨーク在住の18歳の男の子によって、フィッシュマンズの英語版wikipediaが大幅に加筆されました。
英語版フィッシュマンズのwikiの文量がエラいことに。もはや日本語版よりボリュームがすごい。ニューヨーク在住の18歳の男の子が大幅に加えたらしいhttps://t.co/dLqQ9SXMsj
— beipana (@beipana) April 12, 2019
他作品の評価について
Long Seasonは131位
『RYM』にはフィッシュマンズの他の作品ももちろん登録されており、いずれも高い評価を得ています。中でも『LONG SEASON』はスタジオ作品としてはフィッシュマンズの作品において最も評価と人気が高く、全チャートにおいて現在131位です。本エントリー作成時の2018年8月時点では186位だったため、なんと9ヶ月で50位もジャンプアップしたことになります。
評価:4.11 / 5.0評価総数:9,070レビュー数:82ランキング:1996年リリース作品で4位, 全体で131位ジャンル:Dream Pop,Neo-Psychedelia, Progressive Pop
Neo PsychedeliaチャートではLong Seasonが首位
ネオ・サイケデリアにジャンルを絞ってチャートを見ると、Long Seasonは近年の名盤が並ぶ中で堂々第一位。
Top Albums of Neo Psychedelia
- 1.Fishmans - Long Season (1996)
- 2.The Flaming Lips - The Soft Bulletin (1999)
- 3.Animal Collective - Merriweather Post Pavilion (2009)
- 4.The Flaming Lips - Yoshimi Battles the Pink Robots (2002)
- 5.Animal Collective - Strawberry Jam (2007)
- 6.Spiritualized® - Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space (1997)
- 7.Panda Bear- Person Pitch (2007)
- 8.Ween- The Mollusk (1997)
- 9.Animal Collective - Feels (2005)
- 10.Boredoms- Vision Creation Newsun (1999)
Dream PopチャートではTOP10に3枚がランクイン
ドリーム・ポップにジャンルを絞ってチャートを見ると、Long Seasonを含めなんと3枚のアルバムがランクインしていました。
Top Albums of Dream Pop
- 1.Slowdive - Souvlaki (1993)
- 2.Fishmans - 98.12.28 男達の別れ (1999)
- 3.Fishmans - Long Season (1996)
- 4.Cocteau Twins - Heaven or Las Vegas (1990)
- 5.Cocteau Twins - Treasure (1984)
- 6.Beach House - Teen Dream (2010)
- 7.Yo La Tengo - And Then Nothing Turned Itself Inside-Out (2000)
- 8.Fishmans - 宇宙 日本 世田谷 (1997)
- 9.Beach House - Bloom (2012)
- 10.Galaxie 500 - On Fire (1999)
おわりに
一体、なぜ今評価が高まっているのか。この件を最初に教えてくれたBen君曰く「なぜかよくわからないけど、ここ1~2年で急速に評価が高まっていることは確か」とのことでした。
実際の評価者数の推移を調べたのでこちらもどうぞ。
「先日テレビ*8でNY在住の19歳アメリカ人が『FISHMANSが好き』と言ってたらしいよ」
と伝えたところ
「オルタナティブな音楽が好きな人たちにとって、FISHMANSは超有名だからね」
と返事が来ました。そこまで来てるのか。
RYMのレビューにもある通り、ついに2018年8月1日にストリーミングが解禁されましたし、ここからまた面白い展開が待っているかもしれないなと、少しワクワクしてしまいます。
2021年7月追記
現在『’98.12.28 男達の別れ』はRYMで17位
RYMでは、現在『’98.12.28 男たちの別れ』の順位は17位です。
これは、80位から順当に順位を上げ続けたというよりは、2020年頃にRYMチャートのアルゴリズムに変更がなされ、評価者の数よりも評価の値により比重が置かれるようになった結果、レートの高い『’98.12.28 男たちの別れ』がここまで上位に食い込んでいる状況です。
このアルゴリズム変更のタイミングで、それまでのように定期的に順位を追わなくなりました。
Spotifyでは9割以上が国外リスナー
2021年7月時点でのSpotifyにおけるフィッシュマンズの月間リスナー属性は下記のようになっていました。
約25万人以上の月間リスナーのうち、日本はわずか4%。9割以上が国外のリスナーという状況。ライブ音源も新たにリリースされ、ますます再生数は増えているようです。
2021年は、映画 フィッシュマンズが公開されます。私も2019年の製作開始時のクラウドファンディングに参加し、リターンが先日手元に届きました。
たしか2018年8月に公開したこのブログがSNSで拡散され、その後ツイッターで映画製作アカウントにフォローされたことがキッカケで、クラウドファンディングにも参加したように覚えています。
2018年のこのブログ公開当時、音楽ライターの小野嶋大さんがfacebookでシェアし、それをFishamans公式ページがシェアし、以下のようにその状況を今度はRYM側が感知するという流れが生まれたんですよね。3年前。もはや懐かしい。
映画が国外に公開されたら、また新しくリスナーが増えるんでしょうかね。引き続き定期的に状況を追っていこうかと思います。
このブログの著者について
ラップ・スチールギターを用いたレトロで美しいハワイの南国サウンドとモダンな質感をミックスした、最新型のリゾート・ミュージックを奏でる。近年SNSで披露している『ハワイアン・ローファイ・ビーツ』のスチールギター演奏動画は、機材メーカー『ROLAND』のインスタグラムのグローバルアカウントでピックアップされるなど、反響を呼んでいる。
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